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キダム

上海育ちの帰国子女、その未来

アグネス・チャンさんから上海在住の日本人の子供たちへのメッセージ

帰国子女という存在は、昨今日本企業のグローバル化に伴い、今では珍しい存在ではなくなりました。けれども、彼らの異文化体験が、日本では十分に生かされているのでしょうか。海外では積極的に発言していた子どもも帰国とともに元気を失い、「あまり目立つといじめられるから」と、よさを生かすどころか、結局は周囲に同化していくことが少なくありません。新たな視点に立った「国際人」を養うには? そんな疑問を教育学博士でもあるアグネス女史にぶつけてみました。

 海に暮らす多くの日本人の子どもたちの生活はどうしても学校と自宅の往復に偏り勝ち。中国、そして中国人への理解を深めるためにはどうしたらいいのでしょうか。

 子どもを連れて海外で生活していると、ついつい緊張し、子どもを守ろうとするあまり、こもりがちになってしまいますよね。でも、子どもは閉じ込められるほど好奇心を失ってしまうもの。もともと子どもは好奇心が旺盛なのですから、ただ外を歩くだけでもいいんです。それだけで、周りからいろんなものを吸収することができちゃうんです。

 上海は比較的治安がいい街ですが、慣れていないと子どもをひとりで歩かせるのはちょっと不安。でも、それなら親子で一緒に中国の生活に入ってみるのもいいかもしれません。親も子どもと一緒に上海の街を歩いてみれば、さまざまなことを経験できると思います。

 たとえば「今日は“油条”を食べに行こう」とか「河沿いに歩いてみよう」、「中国の映画を観に行ってみよう」というふうに。親子で上海の生活を楽しむことで、子どもも上海の街を感じ取っていくことができるはずです。子どもに10元を手渡して、自由市場で好きなものを買わせる。これだけでも現地の物価や様子を知るきっかけになります。

 確かに異文化に溶け込めることができれば理想的ですが、たとえ溶け込めなくても、その海外にいた期間がムダだということはありません。上海での経験はきっと将来役に立つ時がくるはずです。

 ども以上に親が溶け込めないのかもしれません。

 そうですね。親が自主的に中国人コミュニティに入っていくことはやっぱり大切です。赴任したばかりで中国人の友人がいなくても、会社にはたくさんの中国人が部下として働いていますから、彼らとコミュニケーションを取ったり、家族ぐるみの付き合いをしてみればどうでしょう。子どもは自然にそれを吸収し、真似していくはずですよ。

 逆に親の頭が固いと、子どももなかなか異文化に飛び込むチャンスを得られず、せっかく海外にいても異文化交流を経験できずに終わってしまうこともあります。

 たとえ、親が明確に道を示してあげなくても大丈夫。子どもはちゃんと親を見て育つものです。私には3人の息子がいますが、長男は6月中旬に10日間かけてユニセフのインド視察に同行しましたし、次男も8月上旬から2週間ほどタイのスラムで貧困救済の支援活動をしたいと言い出しています。これは決して私が勧めたのではなく、これまで私が各国で行ってきた活動を見ながら、興味を覚え、彼ら自身が自らそれを体験してみようと思った結果なのです。このように、親が言葉で教えなくても、子どもは親の姿を見て道を選んでいるのです。

 海への赴任をネガティブに捉える家庭もあるようです。日本に戻ってからも堂々と「上海にいました」とは言えない…。国際都市上海の駐在生活の意義をポジティブに解釈するには。彼らの上海の体験を自信に変えていくにはどうしたらいいのでしょうか。

 子どもも大人も、今の上海にいることをネガティブに捉える必要はないと思います。今の中国にいるということは非常に歴史的なことだからです。この奇跡的な発展を自分で見て体験できるんだということに自信を持ってください。

 海外での生活で子どもが身につけたことを、決して世間の評価だけで判断してしまってはいけません。こういった経験や感性は、日本に戻った直後ではなく、遠い将来に発揮されるものなのです。だから、親もそれを信じてあげてほしいと思うんです。学校でどのようなことがあっても、まずは親が「子どもが海外で身につけた経験」を尊重し、そして子どもに「それが誰にもまねできない自分だけの強みなんだ」という自信を持たせることです。また、海外の経験で、新しい自分を見つけ、自分の価値観を変化させるということは、なかなか自力でできることではありません。だからこそ、親が子どもに自信を与えてあげることが欠かせないのです。

 いま、まさにさまざまな面で中国が注目されている時代です。その中で子どもが本当の「中国通」となっていくことは、子どもの将来にとって、非常に役に立つのではないでしょうか。

 ぜ帰国子女は日本の学校で浮いてしまうのでしょうか。

 日本で帰国子女が肩身の狭い思いをしているのは、「周りから浮く」ことを恐れてしまうからかもしれません。でも、考えてみてください、現代は「浮く」人にこそチャンスがめぐってくる時代なのです。他の人には見えないものが見える、自分の意志をはっきり主張できる人材が注目されるようになっています。もちろん「浮く」ことに対して開き直るのではなく、きちんと状況に応じて自分を抑え、周囲に溶け込む努力は必要です。けれども、それも「浮く」ことのできる自分をしっかりと持っていなければできないことですよね。

 際人を育てる本当の教育って何なのでしょうか。世界に開かれた日本の教育や制度、今後どうあってほしいと思いますか。

 国際人というのは、自国とは異なる国での生活を通じて、「違う」ということを認めることのできる人のことを言うのではないでしょうか。現在の日本人は海外に行こうと思えば、旅行や留学という形で簡単に飛び出すことができる時代。ある意味「国際化なんて先のこと」などとは言い訳できない時代になっていますよね。

 恐らく今の日本の教育は、海外で育った子どもを受け入れる過渡期にあるのではないでしょうか。帰国子女のよさをなかなか伸ばしてやれないなど、確かに矛盾も存在していますが、今の段階は国際化していくためのワンステップなのかもしれません。もし日本にもっと帰国子女や、海外経験者が増えれば、日本の教育環境も変わってくるはずです。

 日本の教育は中学校受験、高校受験そして大学受験と小刻みに受験と向き合わなければならないので、それに追われてしまい、子どもがゆっくりと目標を見つけて成長する余裕がないように感じます。たとえ海外でいい経験をしても、それを発揮したり、それをきっかけに自分の目標に結びつけたりというすることがなかなかできません。もっと継続性のある、例えば中高一貫教育のような長いスタンスで、子どもの経験や個性を活かし、はっきりとした目標を持って大学へ進学できるようになればいいのではと思っています。●


(中国名:陳美齢)アグネス・チャン
歌手、エッセイスト、教育学博士
1955年に中国香港に生まれる。72年に「ひなげしの花」で日本歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、カナダトロント大学(社会児童心理学科)を卒業。84年 国際青年年記念平和論文で特別賞を受賞。85年 北京チャリティーコンサートの後、食料不足で緊急事態にあったエチオピアを取材。ボランティア活動、文化活動にも積極的に参加する。89年 米国スタンフォード大学教育学部博士課程に留学。教育学博士号( Ph.D.)取得。エッセイスト、大学教授、日本ユニセフ協会大使など幅広く活躍中。8月3日には新曲「ピースフルワールド」が発売、9月25日には北京の人民大会堂で平和コンサートも予定されている。詳しくはトマス・アンド・アグネスのHP(http://www.agneschan.gr.jp/)にて。


(SUPER CiTY上海 2007年8月号掲載内容)


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