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キダム

2007年8月掲載

第20回 李さんの行方

 急に部屋を追い出された李さん。たった3カ月程度とはいえ、同じ屋根の下で暮らした仲だ。まち子は李さんの行方が気になって仕方なかった。すると1週間ほど経った頃、李さんから電話がかかってきた。

 「ちょっと会いたいんだけれど、いい?」

 「もちろんよ」2人は下宿先のそばの公園で再会した。李さんは近くに部屋を間借りしたという。

 「やっぱりもうちょっと北京で粘ってみよう、と思って」

 そう言うと李さんは急に声を低めた。

 「ねえ、今借りている部屋、悪くないのよ。一緒に住んだら安くなるし、うちに引っ越して来ない?」

 まち子は考え込んだ。引越しは面倒だし、一緒に住んだら、李さんの生活や精神上の問題に深く関わってしまいそうだ。誰もそばにいないことが引き金になって、李さんの精神が崩壊してしまったらどうしよう…。そんな不安もよぎった。だが、いくらルームメートでも分け合えることには限度がある、と心を鬼にした。

 「やっぱり今のところにいるわ。もう慣れちゃったし」

 まち子はなんて友達甲斐のない薄情な奴、と自分を責めた。後ろめたさ半分で、

 「これからも、暇を見つけて会いましょうね」と誘った。

 その後まち子は何度か李さんと会った。李さんの言葉はますますとんちんかんになり、まち子の質問と噛み合わないことも増えたが、その反面、まち子に徐々に心を開き始めているようだった。

 そんなある日、うち開け話をされた。

 「ねえ、おかしいのよ。私の旦那が趙さんと一緒に写っている写真を見つけたの」

 趙さんとはまち子のもう1人のルームメイトで、同居人の中では一番パリッとしていて、おしゃれな人だった。 「しかも、趙さんすごく足を露出しててね、下着が見えてるくらいなのよ。ねえ、変じゃない? どうしてあんな写真を撮ったのかしら。何でだと思う?」

 まち子は耳を疑った。が、これまですこし「的外れ」でも、李さんの言う事が「全くの作り話」だったことはない。

 では、趙さんと李さんの旦那がいい仲になってしまったのだろうか? そんな変な写真を妻の見えるところに置いておくものだろうか? 旦那か趙さんのどちらかが、純真な李さんを挑発しているとしか思えない。

 まち子は「私もわからない」と誤魔化しながらも、

 「でも、そんな写真をみたら腹が立つでしょう? やっぱり旦那さんひどい人だよ。とっとと別れちゃったほうがいい!」と説得した。だが、人を疑うことを知らない李さんは、延々と旦那さんの弁護を始めるのだった…。

 まち子はあるロシア人のおじさんが話してくれた冗談話を思い出した。

 「ソ連時代はアパートの1ユニットに何家族もが窮屈そうに同居したもんさ。部屋も分け合ったけど、『妻』も分け合ったりしてたね」

 中国でもまさか? いや、そんな話は聞いたことがない。しかもここは分配された住宅ではなく、あくまで間借り用のアパートだ。混乱した頭を抱えながら、まち子はそっと李さんの今後を案じた。 

(本作品はフィクションです。実在の人物、団体などとは関係ありません)(次回に続く) 


(SUPER CiTY上海・北京 2007年8月号掲載内容)
  

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