優秀な中国人を我社へ取り込め! 生き残りのための“人財”戦略
優秀な中国人を日系企業で活かそう!
競争が熾烈化する中国市場で日系企業が生き残り、発展する鍵は、中国の市場や中国流ビジネスを熟知する優秀な中国人が握っている、といっても過言ではない時代に突入している。中国人ホワイトカラーや高度な技術者を現地法人や事務所の幹部やスタッフに積極的に登用して、企業躍進の原動力としている日系企業も増えつつある。
そんな成功する企業で活躍する組織と“人財”を紹介しながら、優秀な中国人を組織にどう取り込み、どう生かしていくのかの秘訣を探る。
中国人スタッフを活かす仕事の現場から
日系企業で成長する中国人スタッフたち
沖電気工業
※日沖科技(上海)有限公司
住 上海市漕河泾開発区虹漕路461号 軟件大厦8楼B座
Tel 021-6495-0055
中国人スタッフが快適に感じる会社 価値観の共有が生み出す一体感
(写真左~右)
liyan
李燕 さん 33歳 行政部経理代理
zhaohuiqiao
趙会橋 さん 29歳 LSI技術部経理
sunbo
孫波 さん 28歳 LSI技術部
家電や携帯電話など、さまざまな電子機器に使われている半導体(LSI)を開発・設計する沖電気工業株式会社(OKI)の上海の現地法人、日沖科技(上海)有限公司(以下OSTS)。その中核ともなるLSI技術部で経理(マネジャー)を務めるのは、29歳の中国人、趙会橋さんだ。
中国でもトップクラスの名門・復旦大学で電子工学を専攻したエリート。以前は中国系のLSIの会社で働いていたが、OSTS入社直後にいい意味で”化け“た。「入社当初はとてもおとなしかった。笑顔がこんなにカワイイ人(可愛)だとは思っていませんでした」と同僚の女性も笑って評する。
優秀なエンジニアほどありがちだが、それまでは黙々と技術へ没頭するタイプだった。毎夕終業の時間が来ると、簡単な挨拶をして静かに帰る。ところが、入社後1~2カ月もするとOSTSの雰囲気に慣れてきたのか、同僚たちと言葉を交わすようになっただけでなく、エンジニアとしての専門的な立場から上司や同僚たちに対して積極的に提言するように。決して派手なコミュニケーション方法ではないが、会社とともに自分を成長させていこうとする、会社への帰属意識がにじみ出るようになった。
趙さんは「ここOSTSでは問題に対する考え方が以前とは変わった。技術面でも何でも、問題を見つけたら総経理、副総経理らに直接相談するようにしています。ここは自由な雰囲気があふれていて、とても仕事がしやすい」といきいきと語る。
入社2年半。技術への深い精通度や研究の熱心さだけでなく、チームをまとめていく力も認められ、今は部門の経理として後輩の若いエンジニア5人を引っ張る。「日本本社からの厚い信頼を勝ち取って、私のチーム独自でひとつの製品を開発から設計まですべて一貫して行えるようになりたい。今そのための企画書を制作しているところ。来年には実現させたいです」と意欲にあふれる。自分たちの技術力で新たなものを創造していこうとするエンジニアとしての欲が出ているようだ。彼をここまで“化け”させた要因は一体何だろうか?
価値観を共有する 中国人スタッフたち
OSTSで”化け“たのは、趙さんだけではない。LSI技術部で働く女性エンジニアの孫波さんは、日本のタレント、国生さゆりさんに似ているため、社内でのニックネームは「さゆり」と付けられているとか。そのチャーミングさには似合わず、彼女も理工系の名門・浙江大学を卒業したエリートだ。前出の趙さんと同じ転職組の28歳。
以前勤めていた欧米系の技術会社では「どちらかというとスピードの方が求められて、品質面はさほど厳しくなかった」という。しかし、ここOSTSでの目標は、小さなミスも許さない品質とスピード両面の「完美(完璧)」さ。だからこそ、孫さんは「問題があった時、自分の能力がまだ解決できるレベルまでに到達していないことを思い知らされ、落ち込むこともある。でも、自分の好きなことだから厳しい要求にも挑戦しつづけたい」と、いたって表情は明るい。LSI技術部をリードする「お姉さん的」な存在へと成長した。
転職前、OSTSの面接を受けた時、会社はまだ設立前。しかし、日本人のボスからOSTSがこれから中国でやっていこうとする目標、具体的な技術や事業についての詳しい説明を受け、「心地良さを感じた」という。その感覚は入社後も変わらないばかりか、「より一層確実なもの」になった。
孫さんは言う。「しばらくすると、同僚たちが自分とほぼ同じ価値観を持った人たちであることに気づきました。お互いがそれぞれ尊重し合い、日中の壁を乗り越えて新しいものをここ中国で生み出していこうとする目標がある。だからこそ、この職場に快適さを感じるのかもしれません」と話す。
中国人スタッフたちが感じる、OSTSの心地良さ。その中で自由に自分の力を発揮していく若者たちをみていると、定着率が異常に高いのもうなずける。
2年半で離職者はゼロ
OSTSは、2004年11月に設立されたばかりの若い会社だ。現在、従業員約40人(うち日本人3人)を抱えるが、設立からの2年半でいまだ退職したスタッフは1人もいない。なんと離職率は0%だ。
中国に進出している日系企業の平均離職率は25%前後だといわれているのと比べると、これがいかに異例な数字かが分かる(ちなみに欧米系企業は15%前後)。巨大に成長しつつある中国市場を狙って進出する日系企業は増えているが、「中国人人材が定着せず、人材が育たない」と嘆く総経理は多い。しかし、同社副総経理の松原弘明さんは「弊社は離職率の低さを目標にしているわけではなく、あくまでこれは結果の数字にしか過ぎない」という。
ここで中国人スタッフの人事管理を取り仕切るキーパーソンとなっているのが、行政部の経理代理を務める中国人の李燕さんだ。日系企業人事部や人材会社に勤めた豊富な経験を持ち、特に人事面の管理に長けている。上海外国語大学で日本語を専攻していたため、日本語はネイティブ並みで、日本人と中国人双方からの信頼は厚い。
李さんは、人が定着しない日系企業を目の当たりにしてきた。「人間は機械じゃない。どんな仕事であっても心の交流が大切なはずです。そうなっては欲しくないという事例を反面教師にして、いつか人事をプロとしてやっていきたいという思いでOSTSに入った」という。
OSTSの求人方法は、大学内での会社説明会に参加したり、自社のウェブサイトでも中国語で情報発信している。昨年は求人6人に対して、全国から300人以上の応募があった。インターネットの掲示板(BBS)などを通じたクチコミでも広まり、求人倍率は50倍と人気が高くなったのだという。
採用の基準について、李さんは「どんなに優秀な大学を卒業していて知識が豊富だろうとも、それだけでは採用することはありません。大切なのは、その人そのもの。人物がどうあるのか。この会社と自分の双方の価値を高められる人物であるかどうかです」と語る。
まず書類選考で300人から150人をふるい落とした。さらに150人に対して2回にわたって筆記試験を行い、30人へと絞り込んだ。そして最後の面接では、質問に対する理解力や状況判断能力、論理性などを評価。しかし、松原さんは「最終的にはその人物の価値観を基準に採用している」と強調する。中国人スタッフたちも同僚たちの間で感じているように、価値観の共有が心地良さを生み出しているのだ。
日中が融合し中国で新たな創造を
その価値観とは何なのか? 松原さんは「この会社のゴールは、日中の文化を有機結合し、さらにそれを昇華させることです。『Made in China』ではなく、『Create in China』だと、常に社員に伝えています」。ここ中国を単なる生産拠点としてみるのではない。日中の優秀な人材を最大限に成長させ、彼らの若い力と創造力を融合させることで、これまでになかったものをここ中国で生み出していく。そんな壮大な夢を描き、中国人スタッフたちにも熱く語りかけている。
松原さんは、ある中国人学生からメールをもらった。残念ながら、基準に適わずに採用されなかった学生だ。「OSTSに出会うことで、日本人や日本に対する考え方が変わりました。ありがとうございました。とりあえずは違う半導体の会社に就職しようと思いますが、3年後にまたOSTSの門を叩きたい。それまでに力をつけておくのでよろしくお願いいたします」という主旨の内容だった。
会社の価値観に共感した人間が、さらに同じ価値観の人間を引き寄せる――そうしたプラスのスパイラルがここには生まれているようだ。
ヤクルト
※養楽多(中国)投資有限公司
住 上海市浦東新区浦東大道138号 永華大厦15楼B-C室
Tel 021-5887-4595
全国各地の支店を現地化し中国市場に攻勢
「経営者を育てる」明確なキャリアパスを示して人材育成

(写真)
sunyong
孫勇 さん 33歳 蘇州分公司 営業部長
上海市から自動車でも約1時間半の江蘇省蘇州市にあるヤクルト蘇州支店の早朝には、「今日も1日がんばりましょう。加油!」と明るい掛け声が響く。ここから20代の若いルートマンたち10人が自動車やバイクに乗って出発し、地元のコンビニエンスストアなどに商品「ヤクルト」を届ける。「みんなの掛け声には迫力があります。私自身も元気になるし、スタッフたちとの一体感を感じる時です」と、中国人の孫勇さんは笑顔で話す。
「世界の工場」から「世界の市場」へ。世界中の企業がさまざまなモノやサービスを売る熾烈な激戦区となっている中国市場へ日系企業がどう食い込んでいくのかが課題となっているが、乳酸菌飲料のトップブランド・株式会社ヤクルト本社は全国各地に支店の販売網を拡大していくため、現地の優秀な中国人人材を育て上げ支店をマネジメントする存在として最大限に活用してこうとしている。
中国全体を統括する養楽多(中国)投資有限公司副総経理の松浦祐司さんは「あと7~8年で全国に25支店を設ける計画」だと夢をふくらませる。上海、北京、広州、深圳の4大拠点での順調な販売量の伸びを背景に、新たに天津、蘇州、杭州の地方都市にも3支店を設けたばかりだ。
「揺るぎない自信と信頼を」
そんな蘇州の支店(上海養楽多貿易有限公司蘇州分公司)へ営業部長として今年1月に派遣されたのが、孫さんだ。立場は支店のナンバー2。現在は6月から本格的にスタートする「ヤクルトレディ」を使った宅配の準備などに忙しい。長春市出身の33歳。
地元長春市の高校を卒業後、日本へ渡り大阪の大学と大学院で日本文化などを専攻した異才。「父が日本との関係が深い仕事をしていたため、長春の自宅には日本人もよく来ていて、日本をもっと知りたいと思っていた」という。就職経験も含め、日本での生活は10年以上に及び、日本人と日本をよく知る。
「日本と母国・中国との間の潤滑油として役立つ人間になりたい」と可能性を求めて上海に。ヤクルトに入ったのは昨年の9月だ。それから半年間にわたって実際の業務に従事しながら厳しい研修を受けた。業務の進行状況や問題などを必ず上司に報告し、連絡、相談する「ホウレンソウ」といわれるビジネスの基本から、組織としてスタッフ同士が連携して業務を遂行していくことの重要さなどを徹底的に教え込まれた。
さらには、本人のどこが悪いのか、どう意識を改善していくべきなのかを上司から歯に衣着せずに批評を受けたことも。「厳しすぎると思ったこともあったが、給与をもらいながら大切なことを教えてもらっている」と感謝し、学び続けた。
支店をマネジメントできる人材を育成へ
松浦さんは「彼らに厳しくしているのは、経営者として一本立ちして欲しいからこそ」だと話す。たとえば、時には上司が理不尽な指示をすることもあるだろう。そんな時でもその指示が正しいか間違っているかを抜きに、ちゃんと自分の頭で冷静に対応策を考えていかなければならない。「彼らにはそんな風にどんな状況でも乗り越えていける精神力を身に付けてほしい。揺るぎない自信とか信頼感はそうやって3年ぐらい努力してこそ、やっとジワーと生まれてくるもの。それを学んでほしい」と、彼らを温かく見守る。
販売などでしっかりと実績も上げることができれば、将来は支店長として、さらにはエリアマネージャーや上海の本社のマネージャーとしても登用していく明確なキャリアアップの道も示している。孫さんと同じように将来の支店をまかせる幹部候補として、各支店へ派遣された現地採用の中国人、日本人は現在15人。彼らがそんな道をたどれるかどうかも本人次第なのだ。
「社内コンサルタント」の人事部科長
(写真)
liudaming
劉大鳴 さん 46歳 管理部人事総務 高級科長
日本人にも中国人にも同じようにチャンスを与える。そんな上海ヤクルトで、日本人の幹部からも、中国人スタッフからも厚い信頼を受けているのが、中国人の劉大鳴さんだ。最大の市場・上海での製造販売を担う上海益力多乳品有限公司で管理部人事総務高級科長を務める。
上海生まれの46歳。日本と中国の差異をよく理解し、双方の観点からスタッフそれぞれとコミュニケーションを取る繊細なセンスを持つ。「自分の中に引き出しが多く、どんな問題にも対処できる人物。人事、労務面の社内コンサルタント的な存在」だと松浦さんも絶対的な信頼を寄せる。
はじめから中国市場を狙っている内販型の進出が多い欧米系企業では、まずはじめに人事部へ、人脈や実務経験の豊富な中国人を獲得する。その中国人を軸にして、管理職や営業に優秀な中国人ホワイトカラーを次々と採用していき、組織を固めていくことも多い。その点で、上海市内の百貨店や日系のIT企業、日系の大手電子部品会社などで勤めた経験を持つ劉さんは、同社の人事を握るキーパーソンといっても過言ではない。
中国人人材の現状について、劉さんは静かに語る。「確かに若い中国人の転職率はとても高いようですが、しかし、能力がないという訳ではない。実はその逆。中国人にも優秀な人は多い」と言う。
企業のキーパーソンとなる中国人をつかまえられるかどうかも、「給与などの待遇以上に会社が将来のキャリアアップや、スタッフたちが楽しいと感じられる職場環境を提供できているかどうかが意外と大きい」という。欧米系企業や日系企業の人事部に勤める中国人の友人が多く、彼らの口からも同じ言葉を耳にする。「中国人だけじゃないと思いますが、仕事も人生もやりがいを持って楽しみたいというのが本音だと思います。そんな環境がここにはある」と劉さんは微笑む。
前出の孫さんも話す。「ヤクルトは、会社の利益のためだけに動いていない。中国の人々にも飲んでもらうことで、健康を届ける。社会の利益のためにやっていることに誇りが持てる。だからがんばりたい」。
会社にも、自分にも誇りと揺るぎない自信を持った人を育てる。そんな人々が中核となって中国の市場を開拓していく。それがヤクルトが中国でやろうとしていることだ。
※内容は『SUPERCITY CHINAビジネス07.7月号』より一部抜粋して掲載しております。全ページをご覧になりたい場合、左上の「電子BOOKを読む」からお入りください。
競争が熾烈化する中国市場で日系企業が生き残り、発展する鍵は、中国の市場や中国流ビジネスを熟知する優秀な中国人が握っている、といっても過言ではない時代に突入している。中国人ホワイトカラーや高度な技術者を現地法人や事務所の幹部やスタッフに積極的に登用して、企業躍進の原動力としている日系企業も増えつつある。
そんな成功する企業で活躍する組織と“人財”を紹介しながら、優秀な中国人を組織にどう取り込み、どう生かしていくのかの秘訣を探る。
中国人スタッフを活かす仕事の現場から
日系企業で成長する中国人スタッフたち
沖電気工業
※日沖科技(上海)有限公司
住 上海市漕河泾開発区虹漕路461号 軟件大厦8楼B座
Tel 021-6495-0055
中国人スタッフが快適に感じる会社 価値観の共有が生み出す一体感
(写真左~右)liyan
李燕 さん 33歳 行政部経理代理
zhaohuiqiao
趙会橋 さん 29歳 LSI技術部経理
sunbo
孫波 さん 28歳 LSI技術部
家電や携帯電話など、さまざまな電子機器に使われている半導体(LSI)を開発・設計する沖電気工業株式会社(OKI)の上海の現地法人、日沖科技(上海)有限公司(以下OSTS)。その中核ともなるLSI技術部で経理(マネジャー)を務めるのは、29歳の中国人、趙会橋さんだ。
中国でもトップクラスの名門・復旦大学で電子工学を専攻したエリート。以前は中国系のLSIの会社で働いていたが、OSTS入社直後にいい意味で”化け“た。「入社当初はとてもおとなしかった。笑顔がこんなにカワイイ人(可愛)だとは思っていませんでした」と同僚の女性も笑って評する。
優秀なエンジニアほどありがちだが、それまでは黙々と技術へ没頭するタイプだった。毎夕終業の時間が来ると、簡単な挨拶をして静かに帰る。ところが、入社後1~2カ月もするとOSTSの雰囲気に慣れてきたのか、同僚たちと言葉を交わすようになっただけでなく、エンジニアとしての専門的な立場から上司や同僚たちに対して積極的に提言するように。決して派手なコミュニケーション方法ではないが、会社とともに自分を成長させていこうとする、会社への帰属意識がにじみ出るようになった。
趙さんは「ここOSTSでは問題に対する考え方が以前とは変わった。技術面でも何でも、問題を見つけたら総経理、副総経理らに直接相談するようにしています。ここは自由な雰囲気があふれていて、とても仕事がしやすい」といきいきと語る。
入社2年半。技術への深い精通度や研究の熱心さだけでなく、チームをまとめていく力も認められ、今は部門の経理として後輩の若いエンジニア5人を引っ張る。「日本本社からの厚い信頼を勝ち取って、私のチーム独自でひとつの製品を開発から設計まですべて一貫して行えるようになりたい。今そのための企画書を制作しているところ。来年には実現させたいです」と意欲にあふれる。自分たちの技術力で新たなものを創造していこうとするエンジニアとしての欲が出ているようだ。彼をここまで“化け”させた要因は一体何だろうか?
価値観を共有する 中国人スタッフたち
OSTSで”化け“たのは、趙さんだけではない。LSI技術部で働く女性エンジニアの孫波さんは、日本のタレント、国生さゆりさんに似ているため、社内でのニックネームは「さゆり」と付けられているとか。そのチャーミングさには似合わず、彼女も理工系の名門・浙江大学を卒業したエリートだ。前出の趙さんと同じ転職組の28歳。
以前勤めていた欧米系の技術会社では「どちらかというとスピードの方が求められて、品質面はさほど厳しくなかった」という。しかし、ここOSTSでの目標は、小さなミスも許さない品質とスピード両面の「完美(完璧)」さ。だからこそ、孫さんは「問題があった時、自分の能力がまだ解決できるレベルまでに到達していないことを思い知らされ、落ち込むこともある。でも、自分の好きなことだから厳しい要求にも挑戦しつづけたい」と、いたって表情は明るい。LSI技術部をリードする「お姉さん的」な存在へと成長した。
転職前、OSTSの面接を受けた時、会社はまだ設立前。しかし、日本人のボスからOSTSがこれから中国でやっていこうとする目標、具体的な技術や事業についての詳しい説明を受け、「心地良さを感じた」という。その感覚は入社後も変わらないばかりか、「より一層確実なもの」になった。
孫さんは言う。「しばらくすると、同僚たちが自分とほぼ同じ価値観を持った人たちであることに気づきました。お互いがそれぞれ尊重し合い、日中の壁を乗り越えて新しいものをここ中国で生み出していこうとする目標がある。だからこそ、この職場に快適さを感じるのかもしれません」と話す。
中国人スタッフたちが感じる、OSTSの心地良さ。その中で自由に自分の力を発揮していく若者たちをみていると、定着率が異常に高いのもうなずける。
2年半で離職者はゼロ
OSTSは、2004年11月に設立されたばかりの若い会社だ。現在、従業員約40人(うち日本人3人)を抱えるが、設立からの2年半でいまだ退職したスタッフは1人もいない。なんと離職率は0%だ。
中国に進出している日系企業の平均離職率は25%前後だといわれているのと比べると、これがいかに異例な数字かが分かる(ちなみに欧米系企業は15%前後)。巨大に成長しつつある中国市場を狙って進出する日系企業は増えているが、「中国人人材が定着せず、人材が育たない」と嘆く総経理は多い。しかし、同社副総経理の松原弘明さんは「弊社は離職率の低さを目標にしているわけではなく、あくまでこれは結果の数字にしか過ぎない」という。
ここで中国人スタッフの人事管理を取り仕切るキーパーソンとなっているのが、行政部の経理代理を務める中国人の李燕さんだ。日系企業人事部や人材会社に勤めた豊富な経験を持ち、特に人事面の管理に長けている。上海外国語大学で日本語を専攻していたため、日本語はネイティブ並みで、日本人と中国人双方からの信頼は厚い。
李さんは、人が定着しない日系企業を目の当たりにしてきた。「人間は機械じゃない。どんな仕事であっても心の交流が大切なはずです。そうなっては欲しくないという事例を反面教師にして、いつか人事をプロとしてやっていきたいという思いでOSTSに入った」という。
OSTSの求人方法は、大学内での会社説明会に参加したり、自社のウェブサイトでも中国語で情報発信している。昨年は求人6人に対して、全国から300人以上の応募があった。インターネットの掲示板(BBS)などを通じたクチコミでも広まり、求人倍率は50倍と人気が高くなったのだという。
採用の基準について、李さんは「どんなに優秀な大学を卒業していて知識が豊富だろうとも、それだけでは採用することはありません。大切なのは、その人そのもの。人物がどうあるのか。この会社と自分の双方の価値を高められる人物であるかどうかです」と語る。
まず書類選考で300人から150人をふるい落とした。さらに150人に対して2回にわたって筆記試験を行い、30人へと絞り込んだ。そして最後の面接では、質問に対する理解力や状況判断能力、論理性などを評価。しかし、松原さんは「最終的にはその人物の価値観を基準に採用している」と強調する。中国人スタッフたちも同僚たちの間で感じているように、価値観の共有が心地良さを生み出しているのだ。
日中が融合し中国で新たな創造を
その価値観とは何なのか? 松原さんは「この会社のゴールは、日中の文化を有機結合し、さらにそれを昇華させることです。『Made in China』ではなく、『Create in China』だと、常に社員に伝えています」。ここ中国を単なる生産拠点としてみるのではない。日中の優秀な人材を最大限に成長させ、彼らの若い力と創造力を融合させることで、これまでになかったものをここ中国で生み出していく。そんな壮大な夢を描き、中国人スタッフたちにも熱く語りかけている。
松原さんは、ある中国人学生からメールをもらった。残念ながら、基準に適わずに採用されなかった学生だ。「OSTSに出会うことで、日本人や日本に対する考え方が変わりました。ありがとうございました。とりあえずは違う半導体の会社に就職しようと思いますが、3年後にまたOSTSの門を叩きたい。それまでに力をつけておくのでよろしくお願いいたします」という主旨の内容だった。
会社の価値観に共感した人間が、さらに同じ価値観の人間を引き寄せる――そうしたプラスのスパイラルがここには生まれているようだ。
ヤクルト
※養楽多(中国)投資有限公司
住 上海市浦東新区浦東大道138号 永華大厦15楼B-C室
Tel 021-5887-4595
全国各地の支店を現地化し中国市場に攻勢
「経営者を育てる」明確なキャリアパスを示して人材育成

(写真)
sunyong
孫勇 さん 33歳 蘇州分公司 営業部長
上海市から自動車でも約1時間半の江蘇省蘇州市にあるヤクルト蘇州支店の早朝には、「今日も1日がんばりましょう。加油!」と明るい掛け声が響く。ここから20代の若いルートマンたち10人が自動車やバイクに乗って出発し、地元のコンビニエンスストアなどに商品「ヤクルト」を届ける。「みんなの掛け声には迫力があります。私自身も元気になるし、スタッフたちとの一体感を感じる時です」と、中国人の孫勇さんは笑顔で話す。
「世界の工場」から「世界の市場」へ。世界中の企業がさまざまなモノやサービスを売る熾烈な激戦区となっている中国市場へ日系企業がどう食い込んでいくのかが課題となっているが、乳酸菌飲料のトップブランド・株式会社ヤクルト本社は全国各地に支店の販売網を拡大していくため、現地の優秀な中国人人材を育て上げ支店をマネジメントする存在として最大限に活用してこうとしている。
中国全体を統括する養楽多(中国)投資有限公司副総経理の松浦祐司さんは「あと7~8年で全国に25支店を設ける計画」だと夢をふくらませる。上海、北京、広州、深圳の4大拠点での順調な販売量の伸びを背景に、新たに天津、蘇州、杭州の地方都市にも3支店を設けたばかりだ。
「揺るぎない自信と信頼を」
そんな蘇州の支店(上海養楽多貿易有限公司蘇州分公司)へ営業部長として今年1月に派遣されたのが、孫さんだ。立場は支店のナンバー2。現在は6月から本格的にスタートする「ヤクルトレディ」を使った宅配の準備などに忙しい。長春市出身の33歳。
地元長春市の高校を卒業後、日本へ渡り大阪の大学と大学院で日本文化などを専攻した異才。「父が日本との関係が深い仕事をしていたため、長春の自宅には日本人もよく来ていて、日本をもっと知りたいと思っていた」という。就職経験も含め、日本での生活は10年以上に及び、日本人と日本をよく知る。
「日本と母国・中国との間の潤滑油として役立つ人間になりたい」と可能性を求めて上海に。ヤクルトに入ったのは昨年の9月だ。それから半年間にわたって実際の業務に従事しながら厳しい研修を受けた。業務の進行状況や問題などを必ず上司に報告し、連絡、相談する「ホウレンソウ」といわれるビジネスの基本から、組織としてスタッフ同士が連携して業務を遂行していくことの重要さなどを徹底的に教え込まれた。
さらには、本人のどこが悪いのか、どう意識を改善していくべきなのかを上司から歯に衣着せずに批評を受けたことも。「厳しすぎると思ったこともあったが、給与をもらいながら大切なことを教えてもらっている」と感謝し、学び続けた。
支店をマネジメントできる人材を育成へ
松浦さんは「彼らに厳しくしているのは、経営者として一本立ちして欲しいからこそ」だと話す。たとえば、時には上司が理不尽な指示をすることもあるだろう。そんな時でもその指示が正しいか間違っているかを抜きに、ちゃんと自分の頭で冷静に対応策を考えていかなければならない。「彼らにはそんな風にどんな状況でも乗り越えていける精神力を身に付けてほしい。揺るぎない自信とか信頼感はそうやって3年ぐらい努力してこそ、やっとジワーと生まれてくるもの。それを学んでほしい」と、彼らを温かく見守る。
販売などでしっかりと実績も上げることができれば、将来は支店長として、さらにはエリアマネージャーや上海の本社のマネージャーとしても登用していく明確なキャリアアップの道も示している。孫さんと同じように将来の支店をまかせる幹部候補として、各支店へ派遣された現地採用の中国人、日本人は現在15人。彼らがそんな道をたどれるかどうかも本人次第なのだ。
「社内コンサルタント」の人事部科長
(写真)liudaming
劉大鳴 さん 46歳 管理部人事総務 高級科長
日本人にも中国人にも同じようにチャンスを与える。そんな上海ヤクルトで、日本人の幹部からも、中国人スタッフからも厚い信頼を受けているのが、中国人の劉大鳴さんだ。最大の市場・上海での製造販売を担う上海益力多乳品有限公司で管理部人事総務高級科長を務める。
上海生まれの46歳。日本と中国の差異をよく理解し、双方の観点からスタッフそれぞれとコミュニケーションを取る繊細なセンスを持つ。「自分の中に引き出しが多く、どんな問題にも対処できる人物。人事、労務面の社内コンサルタント的な存在」だと松浦さんも絶対的な信頼を寄せる。
はじめから中国市場を狙っている内販型の進出が多い欧米系企業では、まずはじめに人事部へ、人脈や実務経験の豊富な中国人を獲得する。その中国人を軸にして、管理職や営業に優秀な中国人ホワイトカラーを次々と採用していき、組織を固めていくことも多い。その点で、上海市内の百貨店や日系のIT企業、日系の大手電子部品会社などで勤めた経験を持つ劉さんは、同社の人事を握るキーパーソンといっても過言ではない。
中国人人材の現状について、劉さんは静かに語る。「確かに若い中国人の転職率はとても高いようですが、しかし、能力がないという訳ではない。実はその逆。中国人にも優秀な人は多い」と言う。
企業のキーパーソンとなる中国人をつかまえられるかどうかも、「給与などの待遇以上に会社が将来のキャリアアップや、スタッフたちが楽しいと感じられる職場環境を提供できているかどうかが意外と大きい」という。欧米系企業や日系企業の人事部に勤める中国人の友人が多く、彼らの口からも同じ言葉を耳にする。「中国人だけじゃないと思いますが、仕事も人生もやりがいを持って楽しみたいというのが本音だと思います。そんな環境がここにはある」と劉さんは微笑む。
前出の孫さんも話す。「ヤクルトは、会社の利益のためだけに動いていない。中国の人々にも飲んでもらうことで、健康を届ける。社会の利益のためにやっていることに誇りが持てる。だからがんばりたい」。
会社にも、自分にも誇りと揺るぎない自信を持った人を育てる。そんな人々が中核となって中国の市場を開拓していく。それがヤクルトが中国でやろうとしていることだ。
「優秀な中国人を我社へ取り込め! 生き残りのための“人財”戦略」2ページ目へ
※内容は『SUPERCITY CHINAビジネス07.7月号』より一部抜粋して掲載しております。全ページをご覧になりたい場合、左上の「電子BOOKを読む」からお入りください。


